
まず初めにこの業種に携わろうと思ったきっかけを教えて下さい。
伝統工芸という分野の仕事もあるよと人に紹介されたことがきっかけです。続けてこられたのはやっぱりものをつくることが楽しかったのと、金属工芸の業界の先輩や仲間がいたからですね。独立してからはいろいろな技法を試したり研究をして、デザインや技術の講習にも参加しました。手探りで遠回りもたくさんありましたけど、楽しい時間でしたね。
ここでは現在何人でやられているんですか?
うちは3人でやっているんですが、彼女には僕が遠回りして覚えた技術を近道で教えています。だから成長も早いし、技術的に僕を超えている部分もある。
美術を学んできて、象嵌のことも技術を学び身に付けたいという強い思いがありました。学生の時に伝統的な手仕事のことを知る機会があって、卒業してから小野さんを紹介して頂きました。金属という素材は奥が深くて面白く、現在も楽しく仕事に取り組んでいます。
象嵌の単価は昔と比べて変化してきていますか?
ほとんど変わらないと思います。ただ金の価格が物凄く上がっていますよ。うちは象嵌する金の量を減らして銀を増やすことは一切やっていないけどね。限りある資源だし銀をメインにした品が良くないという訳でもないですが、資産運用なんかの影響を受けて表現の幅が狭められるのは良くないね。
象嵌がアクセサリー中心になったのはいつ頃からですか?
それは相当昔のことで廃刀令が出た時代ですね。刀の鍔などの武具によく象嵌が施されていたんですが、廃刀令によって武具の需要が減ってしまったんです。その頃から象嵌は装飾品として作られるようになりました。現在は女性が身につけるようなアクセサリーが主に製造されています。
似たデザインである漆器などの蒔絵とは違う象嵌の良さは何ですか?
伝統工芸品には素材に適した用途があるんですよ。漆器は木地の保護のため、象嵌では鉄素地の錆止めに漆が使われています。漆器は軽く、椀や重箱など食器や器物に用いられていますね。金属は熱に強くて丈夫なので鉄瓶や茶道具の火箸や釜鐶、蓋置きなんかに象嵌をしています。
金箔を扱う方から象嵌の金は箔と違った鋭い光沢が出るねと言われたことはあります。それぞれに違った良さ、風合いがありますね。
象嵌で使う金は板状の平金だからね。
今の象嵌の市場規模はどのように変化してきていますか?
伝統的な工芸品にはそれが使われてきた風習や文化が薄れるとともに既存の需要が減少している背景がありますが、もともと象嵌は金属に金、銀などで装飾を施す嗜好的なものなので状況は異なるかもしれません。
景気や世の中の情勢に左右されるところはある。
海外の方が京象嵌を買ったりするケースはあるんですか?
ありますよ。コロナ禍前だけど観光客の方とか、京都伝統産業ミュージアムで販売した時や百貨店の催事でも気に入って買ってもらえましたね。
販売なしで実演をしている時は外国人観光客の方から、こういう京都の手仕事の伝統工芸品はどこで売っているのかと聞かれることがよくありました。

京象嵌 小野
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